睡眠薬は、睡眠の質を低下させることなく寝つきをよくしてくれる、とても有効な不眠症の治療手段です。睡眠薬の効果を最大限に引き出し、かつ安全に使用するためには、睡眠薬に対する正しい知識をもち、医師の指示にしたがって使うことが大切です。ここでは、いくつかの事例を挙げながら睡眠薬の正しい使い方について考えてみたいと思います。

 睡眠薬というと、「癖になる」、「服用するとボケる」、「睡眠薬を飲むくらいなら寝酒の方がまし」、などの悪いイメージがあり、他の病気の治療薬とは少し違う偏見が長い間もたれてきました。それは、昔使われていた睡眠薬が、体内に蓄積されやすく危険、使い続けているうちに効き目がなくなる、という種類の薬であったためと考えられます。現在使われている睡眠薬の多くはベンゾジアピゼン系という種類の薬で、医師の指示通りに服用すれば安全で癖になりにくい薬です。まず、このことをよく理解しておきましょう。


 睡眠薬は、作用時間の長さによって(1) 超短時間型(2〜4時間)、(2)短時間型(6〜12時間)、(3)中間型(12〜24時間)、(4)長時間型(24時間以上)、の4種類に分けられます。最近は、翌朝まで眠気をひきずる「持ち越し効果」の少ない超短時間型、短時間型がよく使われています。効果的な治療を受けるためには、不眠のタイプに合った薬を処方してもらえるよう、症状を正確に医師に伝えることが大切です。

 服用にあたって特に注意しなければならないのはアルコールです。昔からナイトキャップなどといい、睡眠薬代わりに寝酒を飲む人が見受けられます。たしかに、アルコールによって一時的に寝つきはよくなりますが、睡眠が浅くなるうえ、眠りが分断されて目が覚めやすくなります。また、睡眠薬と一緒に飲むと前向性健忘などの副作用が起きることもあります。また、睡眠薬をやめる場合も注意が必要です。急にやめると悪夢を伴う不眠が続くことがありますので、医師のアドバイスを受けながら徐々に減らしていく方法をとる必要があります。


 では次に、睡眠薬の誤った使用事例をもとに、
正しい使い方を探ってみましょう。


 症例は58歳の主婦です。1年前から寝つきが悪く、かかりつけの医院で睡眠薬を出してもらったものの、「睡眠薬が怖い」と思い込んで手をつけず、運動などによっても一向に不眠が解消しないとのことです。
 睡眠薬に対して過剰な不安があると判断し、安全性や効果を十分に説明して正しい理解を得た後、睡眠薬をしばらく継続するよう指導したところ改善しました(
図1)


 症例は68歳の男性です。早朝覚醒型の不眠として睡眠薬を服用していますが一向に改善がみられません。睡眠状況について質問したところ、午後8時に就寝し、午前3時に目が覚めるとのことでした。

 朝早くから目が覚めるとのことですが、睡眠時間は7時間確保できているので、睡眠の時間帯が前にずれている睡眠相前進症候群と診断しました。そこで、就寝時刻と起床時刻について生活指導を行ったところ、3ヵ月後に睡眠パターンは改善しました。

 「眠れない」という訴えだけで安易に睡眠薬を服用するのは得策ではありません。生活習慣を改善して不眠が解消する場合は睡眠薬は不要です。


 症例は45歳の男性会社員です。抑うつ症状に対して抗うつ薬と睡眠薬が処方され、抑うつ症状が改善したので抗うつ薬を中止しました。しかし、寝つきの悪さが持続したため睡眠薬は続けています。毎朝10時頃まで眠気があり、だるくて仕方がないとのことです。

 この患者さんには長時間型の睡眠薬が処方されており、午前中の眠気や倦怠感は睡眠薬の持ち越し効果によるものと判断しました。そこで、作用時間の短い睡眠薬に変更したところ改善しました(
図2)



 では次に、正しい使用事例を紹介します。

 症例は、22歳の男子学生です。6ヵ月前から就職活動と卒論が重なり、気のあせりから寝つきが悪くなり、日中の活動にも悪影響がみられ、思い通りにはかどらないとのことです。

 特に強い内面的な葛藤や不安もみられなかったため、睡眠不足による悪循環を断ち切ることが先決だと判断し、睡眠薬を出しました。その結果、夜にぐっすり眠れるようになり、就職活動も卒論も順調に進めることができました。


 症例は55歳の男性会社員です。息子の非行や引きこもりがきっかけで不眠を覚えるようになりました。その後、息子の状態が落ち着いたにもかかわらず眠れないとのことです。
 心理的ストレスを引きずっていて、短期不眠から慢性持続性不眠になってしまったと判断し、睡眠薬を処方したところ改善がみられました。


 いくつかの事例を通して、睡眠薬の上手な使い方が少しでもおわかりいただけたでしょうか。推奨される睡眠薬の条件としては、(1)レム睡眠や徐波睡眠の抑制が少ない、(2)リバウンドが殆どない、(3)持ち越し効果が少ない、(4)筋弛緩作用がほとんどない、などが挙げられます。最近は、これらの条件に合致する超短時間型睡眠薬が登場し、不眠症改善の向上が大きく期待されます。

 患者側の心構えとしては、「眠れない」という訴えに対してすぐに睡眠薬を処方してくれる医師ではなく、睡眠の訴えを受けとめて背景にある心の病気や身体の病気を十分に探ってくれる医師を是非探しましょう。
睡眠薬は決して怖い薬ではなく、医師の指導のもとに適切に使用すれば安全で高い効果が得られます。快眠のための生活習慣を守ることが大前提であることは言うまでもありません。

上にもどる