うつ病は「心の風邪」といわれるほどよく見られる病気で、男性の1割、女性の2割に生涯のうちに経験すると考えられます。うつ病患者さんの約9割に不眠がみられ、不眠で病院を訪れる方の約半数はうつ病の患者さんです。不眠はうつ病の発症に先行して生じることが多く、持続する不眠はうつ病の危険因子になります。また、不眠によって軽快したうつ病の再発率が高まることもわかっています。決して、不眠イコール「不眠症」という病気だけではありません。不眠はその背景にさまざまな原因が隠されています。
では、うつ病の不眠と「不眠症」の不眠にはどのような違いがあるのでしょうか。たとえば、「不眠症」の患者さんは実際には眠れているのに眠れていないと感じる、つまり自らの不眠を過大評価する傾向がありますが、うつ病患者さんの不眠は自己評価とよく一致します。また、「不眠症」は入眠障害や中途覚醒がよくみられますが、うつ病ではすべてのタイプの不眠がみられ、特に早朝覚醒が多くみられるのも特徴です。
ところが、不眠の悩む方のほとんどが医師に相談しておらず、実際に不眠治療を受けている方はごく一部です。大多数の方は不眠を放置しており、特に日本では寝酒に頼っている方が多いといわれています。不眠はかかりつけ医に相談しやすい身体症状です。眠れないならまず病院へ行き、医師に相談することをお勧めします(表1)
最も多い不眠の原因はうつ病ですが、患者さんは医師に眠れないことのみを訴えがちです。患者さん自身の解釈は眠れないから憂うつになり、意欲が低下し、食欲がなくなるとお考えになります。一方、うつ病は不眠だけでなく、頭痛、耳鳴り、肩こり、便秘、下痢、冷え、ほてり、寝汗、疲労感、全身倦怠など、身体症状は何でもありの病気なのです(表2)。皆さんは、眠れなくなったとき、最初から精神科にかかることはまずありません。何らかの症状でかかりつけ医に相談するのが一般的ですが、検査の結果、特に何もないといわれたときこそ要注意です。不眠はうつ病発見のよい手がかりになることをぜひ覚えておいていただきたいと思います。
不眠がうつ病の危険因子になる医学的な理由はまだ明らかになっていませんが、不眠やうつ病はストレスと関係が深く、ストレスによって分泌が調節される副腎皮質ホルモン系がストレス-不眠-うつ病の悪循環を形成すると考えられています。
それでは、不眠の治療によってうつ病を予防することはできるのでしょうか。現在もっとも処方されているベンゾジアゼピン系の睡眠薬は睡眠を改善すると同時に、ストレスに対する副腎皮質ホルモン系の反応を抑制することが知られています。不眠の治療によって質の高い睡眠を得ることがステロイドホルモン系の反応を抑えます。不眠の治療はうつ病の発症予防につながる可能性があることをご理解ください。



















表1:眠れないなら、まず病院へ






表2:うつ病は身体の病気