わが国ではおよそ5人に1人が、「熟眠感がない」、「何らかの不眠がある」といった不眠の悩みを抱えています。不眠で最も多いのが寝つきの悪いタイプ(入眠障害)です。その他、途中で目が覚めるタイプ(中途覚醒)、朝早く目覚めてしまうタイプ(早朝覚醒)、ぐっすり眠った感じがしないタイプ(熟眠障害)の4つのタイプがあります。うつ病の患者さんでは早朝覚醒が多く、明け方の3時や4時に目が覚めてしまい、その際に強い抑うつ状態を感じることも多いといわれています。
 健康な人でも、心配事や楽しいことを控えて眠れないことはありますが、一時的な不眠は問題になりません。週に3〜4回眠れない状態が1ヶ月以上続くような場合は、医師に相談することをお勧めします。医療機関を受診する際は、事前に自分の不眠状態を簡単にまとめておくとよいでしょう。どのタイプの不眠なのか、就寝時間や起床時間、いつ頃どのようなきっかけで始まったのか。あらかじめ自分の睡眠状態を整理することで、医師への相談がスムーズになります(表1)

 不眠の治療薬としては、睡眠薬、安定剤(抗不安薬)、市販の睡眠導入薬などがあげられます(表2)。睡眠薬はいわゆる睡眠障害の治療薬で、不眠のタイプによって作用時間の異なる薬剤が使い分けられます。安定剤は不安を取り除く薬剤ですが、構造的には睡眠薬に類似したものが多く、筋肉の緊張をほぐす作用などもあります。市販の睡眠導入薬は睡眠改善剤と呼ばれるもので、医療用の睡眠薬とは全く異なるものです。基本的に、睡眠障害は医師の指導のもとで、適切な治療を行うことが大切です。
 睡眠薬というと、どうしても「怖い薬」として誤解されがちですが、これは誤った認識であることを理解していただきたいと思います表3。かつて使用さえていた睡眠薬はバルビタール系という薬剤で、大量服用で生命に関わることもありました。しかし、現在使用されているベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系とよばれる睡眠薬は古いタイプの睡眠薬とは全くタイプの異なる安全性の高い薬剤です。
 「クセになってしまうのではないか」、「だんだん効かなくなって、量が増えるのでは」、「ボケてしまわないか」、「睡眠薬より寝酒の方が安全なのでは」といった不安の声を聞くこともありますが、これらは誤解と言って良いでしょう。現在使用されている睡眠薬には依存性や耐性はほとんどなく、記憶力が低下することもありません。寝酒を続けることと比較して、睡眠薬の方がはるかに安全性が高く有用であることがわかっています。
 睡眠薬に対する間違った知識は、中途半端な服用や患者さんの自己判断による服薬の中断などの行為につながり、かえって不眠を悪化させる原因になります。ぜひ、睡眠薬を正しく理解し、正しい知識を身につけていただきたいと思います。

 睡眠薬は医師の指示を守って、規則正しく服用すれば、副作用の少ない安全性の高い薬剤です。飲んだらすぐにベッドに入る、症状が改善するまでは勝手に中断せずに毎日服用する、自分勝手に増量しない、アルコールと一緒に飲まない、翌日に眠気が残るなどの症状があらわれたら医師に相談する、といった注意事項を守って正しく服用するようにしましょう。
 睡眠障害は、睡眠薬による治療だけでなく、睡眠環境を整えることによっても十分に改善します。「睡眠障害対処12の指針」なども、ぜひ参考にしていただきたいと思います。














表1:お医者さんに相談する





表2:眠るためのお薬


表3:睡眠薬によくある誤解・不安